今、日本を含む120以上の国と地域が、「2050年カーボンニュートラル」の実現を表明しています。カーボンニュートラルとは、CO2をはじめとする温室効果ガスの排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすること。温室効果ガスの排出を削減すると同時に、CO2を吸収する森や海の植物を守ることで、地球温暖化の緩和を目指しています。

元来、自然との共生によって持続可能性を高めてきた気仙沼では、世界に先駆けてカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めてきました。環境への負荷を減らし、自然の恵みである地域資源を大切に守り育み、その価値を市民活動やESDによって次世代へ伝えています。さらに震災後は、再生可能エネルギーの地産地消、公共施設や地域産業の脱炭素化・省エネ化も加速。こうして産業・教育・経済・復興など、分野の垣根を越えた地域全体で脱炭素化を目指すのが、気仙沼のカーボンニュートラルの特長です。その取り組みの一部を紹介します。

東日本大震災をきっかけに、持続可能なエネルギーへの転換を促進してきた気仙沼では、2014年に国内初の小規模「木質ガス化バイオマス発熱電プラント」が稼働開始。2017年には、「気仙沼市民の森風力発電所」の運転も始まりました。

市としても、再生可能エネルギー発電設備の普及を目指し、太陽光発電設備や蓄電池などを設置する一般家庭に補助金を交付しているほか、公共施設における再生可能エネルギー設備の導入、市有地を活用したメガソーラーの建設などを推進。脱炭素化を図るべく、自然の力を利用したエネルギー生産に努めています。

地域内で生み出したエネルギーの自家消費を推進するため、気仙沼市は民間企業と共同で地域新電力会社「気仙沼グリーンエナジー株式会社」を設立。2019年から電力供給を開始しました。地域内の再生可能エネルギーにより発電された電力などを同社が購入し、地域内の公共施設や企業、一般家庭などに供給する仕組み。「エネルギーの地産地消」だけでなく、「電気料金の削減」「地域防災力の強化」「地域経済循環の促進」などの複合的な効果が期待されています。

漁業や水産業でも、環境負荷の少ないクリーンエネルギーを導入。魚市場ではフォークリフトをエンジン式から電動式に転換しているほか、LED照明の整備などの脱炭素化を推進しています。

また、地球温暖化の緩和に向けた対策として、海の植物によって大気中のCO2を吸収・貯留する「ブルーカーボン」の働きが期待されていることから、気仙沼では海草藻場の管理などを通じて、海洋性植物などの炭素吸収源を整備しています。

海洋プラスチックごみは、生態系を含む海洋環境に大きな影響を与えています。気仙沼では子どもたちへの海洋教育や環境学習、市民による清掃活動などを通じて、海洋汚染を防ぐための取り組みや啓発が盛んに行われています。

「森は海の恋人」運動スローフード運動が根付く気仙沼では、国内外に先駆けてESD・環境教育の研究や現場実践を重ねています。持続可能な社会の担い手を育てるため、自然環境や食文化を未来へつなぐ教育プログラムを導入。生産者や企業、住民との連携を図りながら、地域全体で子どもたちの食育や環境保全に取り組んでいます。

また、自然と共生するまちとして防災教育や 震災伝承にも力を入れています。

これらのほかにも、持続可能な食の循環を目指す農畜産業漁業、豊かな自然環境によって育まれた食文化、海と生きる港町ならではの 漁業文化、地域資源を活用した新しいものづくりなど、さまざまな活動が地域に広がっています。

気仙沼は今後も、まちの産業や生活、文化を創り支える発展の基礎的な理念として「自然との共生と持続可能性」を掲げ、市民ひとりひとりや地域、企業、行政などが一体となってカーボンニュートラルの取り組みを推進していきます。先人たちから受け継がれてきた気仙沼ならではの“豊かさ”を次世代につなげる、持続可能な社会の構築を目指して。