地域と食を支える

若手生産者

若手生産者の地域への想いが気仙沼の食と農をより豊かに

肥沃な大地が広がる気仙沼では、農産物や乳製品の生産が盛んです。代々続く技術や知恵を受け継ぎながら、新しい可能性を切り開く若手生産者もいます。その一人が、気仙沼の気候では難しいショウガ栽培に取り組んでいる農家・齋藤憲介さん。もう一人が、放牧飼育や自給飼料の生産拡大に挑む酪農家・小野寺佑友さんです。この両者のチャレンジは、地域への想いから生まれました。地元で求められる食材の生産や地域資源の活用など、持続可能な食の循環を見つめるお二人の未来へ向けた試みをお伝えします。

農家 
齋藤 憲介さん

「地産地消を進めるため、気仙沼の気候では育ちにくいショウガの栽培を実現」

僕と父で営んでいる農園では、キュウリとトマトをメインに生産。手間はかかっても味を第一に考え、昔ながらの栽培方法や品種にこだわって作っています。キュウリを育てているビニールハウスは、僕の1歳の誕生日に家族が設営したもの。トマトのハウスは7歳の時、気仙沼に伝わる民俗行事「羽田のお山がけ」(子どもの成長を祈願する神事)にあわせて建前をしました。こうした節目に張られたハウスを自分たちでメンテナンスしながら、大事に使い続けています。

5代目になる僕が、新たにショウガづくりを始めたのは2012年のこと。本来ならショウガ作りに適さない気仙沼で栽培しようと思ったのは、地域の力になりたかったから。気仙沼では刺身の薬味や水産加工品などにショウガをたくさん使うので、せっかくなら地元産を提供したかったんです。実は一時期、市内の大谷地区でショウガが作られていたことは知っていました。当時、「気仙沼でも作れるのか」と驚いたんですが、そのショウガ栽培も震災で途絶えてしまって…。そこで気仙沼農業改良普及センターから声をかけてもらい、チャレンジすることにしました。

齋藤さんのキュウリは地元でも「味がいい」と評判。

手さぐりで始めた1年目は全くうまくいかず、収穫ゼロ。それなら気仙沼の気候に合わせて栽培方法を変えようと、独自のやり方で試行錯誤を重ねました。普通は種ショウガを直接畑に植えますが、その前に種ショウガを育苗してから畑へ植え替えるようにしたら、次第に大きく育つように。今では収穫量や品質も安定し、日本一の産地・高知のショウガと同じくらいおいしいと言っていただけるようになりました。

種ショウガの植え方を説明する齋藤さん

齋藤さんのショウガが一部使用されているサンマの甘露煮

地元の水産加工会社からも「齋藤さんのショウガを使いたい」と言っていただき、サンマの甘露煮に使ってもらっています。農業は天気の影響を受けるので大変な仕事ですが、地域の特性に合わせて新しい栽培方法を考えたり、異常気象に備えて野菜を植える場所を変えたり、自然とうまく向き合いながら、日々工夫しています。

うちでは農作物の出荷以外に、市内の種苗店や農協で販売するための野菜苗も栽培しています。この苗作りは、種まきから始めて「接ぎ木」という作業を行います。たとえばキュウリは根っこが弱いため、根っこが強いカボチャを接ぐことで、病害虫に強いキュウリ苗へ。接ぎ木は古くからある園芸技法ですが、長年の経験や労力を要するので、最近では農家でも購入苗を使っているところが多いようです。でも、種から手をかけて育てるからこそ、より強い苗になり、おいしい作物ができると僕は実感しています。また、ちゃんと管理されて育った新鮮な苗は、家庭菜園でもしっかりと根を張ります。僕たちがつくった苗を通して、地域の方々に「食べ物を育てて食べる」という経験を提供できたら何よりです。気仙沼はスローフード都市を宣言したまちですから、農家としてもできる限り地産地消を目指したいもの。地域の中で求められる食材があれば、生産に協力したいと考えています。

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「放牧や地元産飼料で牛を育て、地域が無理なく持続できる循環型酪農へ」