地域と食を支える

若手生産者

酪農家 
小野寺 佑友さん

「放牧や地元産飼料で牛を育て、
地域が無理なく持続できる循環型酪農へ」

気仙沼市の本吉地域は、かつて「乳が流れるまち」と呼ばれるほど酪農が盛んでした。“一家に牛一頭”は普通のことでしたが、次第に牛を飼う家庭が減っていき、今では4軒に。わが家は祖父の代に酪農を始め、今は私が父から受け継いで3代目。約30頭の牛に1頭ずつ名前をつけて、できるだけストレスのないように放牧飼育しています。

本吉地域の広大な土地を利用した小野寺さんの牧場

現在、地元の観光牧場「モーランド・本吉」で販売している牛乳は、うちの牧場から出荷しているもの。気仙沼産の牛乳とうたうからには、牛の飼料も地元で作ったものにこだわりたいと思い、一般的な外国産の飼料ではなく、自分で刈り取った牧草を発酵させて牛に与えています。将来的には100%地元産の飼料にしたいので、2021年からは耕作放棄されていた畑を新たに借り、飼料用トウモロコシの栽培を拡大。畑の肥料には牛の排泄物を利用し、その畑で育った作物を牛のエサへと、自然資源を生かした循環型酪農を強化しているところです。

モーランド・本吉の「牧場牛乳」。濃厚で優しい味わい

また乳牛のほかに、肉牛を1頭育てています。肉牛の飼育を始めたのは、ある銘柄牛との出会いがきっかけでした。高級な霜降り肉を生産する現場を見て、食べるためだけの飼い方に疑問を感じたんです。牧場で自由に動き回り、好きな時に牧草を食べた健康な牛ではだめなのだろうか。そう思って立ち上げたのが、「きたろうプロジェクト」。牛本来の自然な生き方を尊重しながら放牧飼育することで、人間との共存や命のいただき方を見つめ直す活動です。一代目の牛「きたろう」や二代目「ももこ」と地域の人が触れ合う機会をつくり、最終的には食べてもらうことで、みんなで一緒に食の在り方を考えています。食肉生産の実情を知って複雑な気持ちになったり、自分が飼育体験した牛を食べることに抵抗を感じたりする人もいるかもしれません。でも、それも一つの大切な結果。僕自身、「知らないほうが良かった」と思ったことは一つもなかったので、みんなにも知ってほしいなと思うんです。

こんなふうに牛も飼育環境も、なるべく生態系に負荷をかけずに続けられることが理想です。そのためには、気仙沼の地域資源を生かすことも大切。地元で商品にならず残ったものや未利用エネルギーなども活用しながら、地域で無理なく循環できる食づくりを発展させていければと願っています。そのために今、自分が始めようとしているのは「機械を使わない米作り」。現状では農家が大切に作った米が適性価格よりも安く売られているように感じるので、もっと付加価値を高めるために、牛で田んぼを耕そうと思っています。その様子を地域の子どもたちにも見てもらって、気仙沼の自然や食の成り立ちを感じてもらえたらうれしいです。

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