けせんぬま震災伝承ネットワーク 語り部
近藤 公人 さん
階上中学校3年生 語り部
三浦 雅哉さん
震災伝承に込める
気仙沼の決意
震災に学び、次世代へつなぐ。海からの教えと恵みをまちの力に
東日本大震災で大津波に見舞われた気仙沼では、災害から身を守るすべや命の大切さを後世に伝えるべく、地域を挙げて防災教育や震災伝承に取り組んでいます。その活動の一つが、市民ボランティアから始まった「語り部」。被災地を案内しながら教訓を語り継ぐ活動が、沿岸部の各地域で行われています。震災前から子どもたちの防災教育に力を入れてきた階上地区でも、地域住民や階上中学校、気仙沼向洋高校など市内の中高生が語り部となり活発に活動。同地区にある「気仙沼市 東日本大震災遺構・伝承館」で語り部を務めているのが、けせんぬま震災伝承ネットワークの近藤公人さんと階上中学校3年生の三浦雅哉さんです。語り部活動に対する想いをお二人に尋ねることで、海と共存する風土や世代を超えた地域のつながりも見えてきました。
「震災の教訓を語り継ぐだけでなく、海と生きる気仙沼の魅力も伝えたい」
近藤さん
階上地区で語り部活動に参加しているのは、大人が20数人、中高生は80人ほどおります。この活動のきっかけとなったのは、階上地区の住民有志で作った震災記録誌『服膺(ふくよう)の記』。1000年に一度と言われる災害を後世に広く伝えなければという想いから、記録誌を制作したメンバーの呼びかけで語り部活動が始まりました。2019年3月に「東日本大震災遺構・伝承館」がオープンしてからは、ここの語り部ガイドとして参画しています。
近藤さんら住民有志の皆さんが作った階上地区の震災記録誌
近藤さんと三浦さんが活動する「東日本大震災遺構・伝承館」
三浦さん
僕のおじいちゃんも近藤さんと一緒に記録誌づくりや語り部活動をしていたので、僕も誘われて参加するようになりました。最初は「中学生に語り部なんてできるのかな」と不安でしたが、今では「中学生だからこそ、できることがある」と感じています。中学生から教えられるのと、大人から教えられるのでは、聞く側の感じ方が全然違うと思うんです。おじいちゃんが「子どもに伝えていくことが伝承の原型であり、一番大切なこと」だと言っていたので、自分も同世代の中高生にどう伝えたらわかりやすいかなと考えながら活動しています。僕が通っている階上中学校では毎年、生徒が防災学習について発表する行事があるので、それも自分が得た知識を人に伝える練習になっています。
近藤さん
語り部の中高生は、自ら進んで地域のことを勉強しているんです。震災のことだけでなく、地域の歴史や産業、名産品など、県外から来た人に何か聞かれてもすぐに答えられるので、感心しています。自分たちの地域を知れば、地域に対する愛着も湧きますから、情操教育にも役に立つのではないかと思っています。
館内を案内しながら震災の教訓を伝える近藤さん(右)と三浦さん(左)
施設を訪れた方々からの感想やメッセージが館内の壁一面に掲示されています。
三浦さん
気仙沼は、はるか昔から海と関わってきたまちです。自分はまだ14年間しかここで生活していないので、おじいちゃんや他の大人の方に気仙沼の歴史や海のことを聞くようにしています。東日本大震災の津波で多くのものを奪われましたが、それでも海と生きるまちであり続けようとするのは、それほど海からの恵みが大きかったからだと思います。僕は震災前から気仙沼がすごく好きだったし、何回も海で遊んだ記憶があります。津波でまちの景色は変わったけれど、今もずっと気仙沼が大好きです。だから語り部としても、海から奪われたもの以上に多くのものをもらっていることを伝えていきたいです。
近藤さん
気仙沼の人たちは、海を恨んでいません。海からたくさんの恵みを受けることで、我々の生業は成立しています。震災ではつらいことばかりでなく、人の温かさや絆を感じることができましたし、地域の魅力の再発見にもつながりました。そして三浦くんのように、子どもたちは語り部活動や学校での防災教育によって大きく成長しています。こうして自然や命の大切さを学んだ子どもたちが、未来の気仙沼を創っていってくれるだろうと期待しています。