スローフード気仙沼 理事長
菅原 昭彦 さん
Slow City
Kesennumaへの歩み
「スローフード都市を宣言し、
食を核にしたまちづくりが加速」
こうして食を中心とするまちづくりを推進するうち、木村さんのアイデアから「スローフード」というキーワードにたどり着きます。この言葉は、1986年にイタリアで始まったスローフード運動から世界へ浸透していったもの。自然の恵みを享受しながら地域の食を守り育み、心豊かに暮らしていこうという理念に基づいています。このような精神性は気仙沼でも以前から大事にされており、すでに1986年には「魚食健康都市宣言」を行っていました。そして2003年3月、気仙沼市が国内初となる「スローフード都市宣言」を制定。産学官民が協働し、スローフード運動が広がっていきます。
「スローフード都市」を宣言したからには、住民の意識の醸成も必要です。2003年2月に発足したまちづくり団体「スローフード気仙沼」を運営する私も、スローフード運動の普及・啓発に奔走します。その理念を地元の皆さんに知っていただくため、ある時は小学校や中学校、ある時は老人クラブへ。しかしスローフードという言葉が浸透していなかった当時は、なかなかご理解いただけませんでした。言葉で伝えるのが難しいならば五感で知ってもらおうと、「気仙沼スローフードフェスティバル2007冬」の開催に至ります。
このイベントでは山と海をつなぐことをテーマに据え、内陸部に位置する八瀬地区の旧月立小学校を会場に選定。気仙沼地域のスローフード運動を「見る・聞く・触る・味わう・感じる」のコーナーに分け、五感で楽しめる工夫を凝らしました。
イベント当日、旧月立小学校には多くの地元住民が集まりました。
地元の食を味覚や展示で知るだけでなく、生産者や料理人の話を聞いたり、塩辛の漬け方やカツオのさばき方を体験できたり…。また気仙沼には食べ物由来の郷土芸能も多いので、豊作を願う「田植踊(たうえおどり)」、航海の安全を祈る「虎舞(とらまい)」、カツオ一本釣りを表した動きもある「鹿踊(ししおどり)」など、地域に古くから伝わる踊りを目の前で感じてもらいました。真冬の雪深い里山で行われたイベントでしたが、2日間で12,000人が来場。この成功は八瀬地区に活気をもたらし、現在も毎月第3日曜に地域特産のそばを提供する「八瀬・学校そば」につながっています。
山のほうで弾みがついた一方、港に近い中心市街地は元気を失っていました。そこで2010年に開催したのが、商店街の空き店舗も活用した「気仙沼スローフード タウン&ライフフェスティバル2010秋」。ここでは食の発信に加えて、市街地の活性化や豊かな暮らしにつながる企画・演出を取り入れました。2日間で集客20,000人の大盛況を博したことで、商店街の人たちの士気も向上。さらに盛り上げていこうという気運の中、2011年3月11日、東日本大震災に見舞われたのです。