NPO法人 森は海の恋人 
理事長 畠山 重篤 さん

NPO法人 森は海の恋人
副理事長 畠山 信 さん

人の心を育てる

「森は海の恋人」運動

「“海を守る森づくり”が人々の意識を変え、世界中から注目される舞根湾に」

信さん

室根地区(現在の岩手県一関市室根町)の方々に活動への協力をお願いする場で、父・重篤は、何よりも最初に「感謝」を伝えたそうです。「室根の森のおかげで、自分たち漁師が生活できるんだ」と。川の上流に住む人たちは、下流に住む人たちから「川を汚すな」という批判を受けることの方が多かったので、父の言葉に心を動かされたと聞きました。実は舞根地区と室根地区は、地域の伝統行事を通じて1200年以上前から文化的なつながりを持っています。元々交流のある地域だったこともあり、一緒に森づくりに取り組もうという機運が高まっていったのですね。

重篤さんの三男で、
NPO法人「森は海の恋人」の副理事長を務める畠山信さん

1989年にスタートし、年に一度行われている植樹祭にはどんどん参加者が増えていきました。国や自治体による環境汚染対策も進み、少しずつ流域全体の環境が良くなってきたわけですが、一番大きな成果といえるのは、人々の意識や考え方が変わったことです。室根地区では、植樹活動への参加をきっかけに、環境保全型農業への転換など自然環境を守る主体的取り組みが広がっていきました。自然を良くするのも悪くするのも、全て人の心持ち次第。自然の重要性やつながりを理解し、どう守っていくかを考えられる人がたくさん育てば、おのずと自然環境は良くなっていきます。我々の活動の真意は「森づくりを通じた人づくり」なのだと、活動を続ける中で気付かされたのです。

室根山で行われた植樹祭の様子

重篤さん

たくさんの方が関心を持ってくださったおかげで、「森は海の恋人」の活動は小・中学校の教科書にも取り上げられ、全国で知られるようになります。さらに「森は海の恋人」の理念に通じる新しい学問も起こりました。それが、2004年に京都大学の田中克先生が提唱した「森里海連環学」。森・川・海をトータルで見るだけでなく、人間の生活や生業が存在する「里」の視点からも自然のつながりについて考える学問です。これをきっかけに、私も京都大学から協力を依頼され、学生への講義や舞根湾での実習を行っています。森里海連環学の研究チームは日本に約35,000もある河川の主なるところを調査し、森と海の関係がいかに重要かを数字で証明。こうした動きによって私たちの活動も科学的に認められ、世界中から多くの人が舞根湾へ視察に訪れるようになりました。